目次

ここでは、STP分析の基本的な考え方や目的、そしてセグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの3つの要素がどうつながっているのかを、できるだけわかりやすく整理していきます。
STP分析とは、Segmentation(セグメンテーション)、Targeting(ターゲティング)、Positioning(ポジショニング) の頭文字を取ったマーケティングのフレームワークです。
これは、アメリカの経営学者フィリップ・コトラーが1990年代に提唱し、著書『マーケティング・マネジメント』で企業が市場戦略を考える基本手順として、わかりやすく整理・紹介された概念です。
STP分析では、以下の3つのステップで、戦略を立案します。
STP分析は、以下の図のように、3つの要素が密接に関連しています。

まず、セグメンテーションで市場を細分化し、ターゲティングで狙うべき市場を決定します。そして、ポジショニングで、ターゲット市場における自社の立ち位置を明確化します。
この3つのステップを適切に行うことで、効果的なマーケティング戦略を立案し、事業の成長に繋げることができます。

マーケティング戦略を考えるとき、なぜSTP分析が大事なのでしょうか?
ここでは、STP分析を行うことで得られる3つのメリットを紹介します。
STP分析を通じて、競合他社がどの市場をターゲットにし、どんなポジションを取っているのかを把握することができます。
その情報をもとに、自社が狙うべき市場や、他社とどう差別化できるかが見えてきます。
結果として、競争が激しい市場でも、自社独自のポジションを確立し、優位に立つことが可能になります。
セグメンテーションでは、顧客をニーズや属性に沿って分類していきます。
このプロセスを通して、顧客が何を求め、どんな行動を取るのかがより深く見えてきます。
こうした理解をもとにすれば、より効果的なマーケティング施策を考えやすくなります。
たとえば、ターゲット層に合わせた商品企画、刺さる広告メッセージの設計、適切な販売チャネルの選定など、あらゆる施策に活かすことができます。
STP分析の結果は、社内で共有することで戦略に対する考え方を揃えることができます。
全員が同じ前提や方向性を理解していると、チームの連携が取りやすくなり、施策の実行スピードや精度も上がっていきます。
ターゲット市場、自社の強み、競合との差別化ポイントなどを、全社員が共通認識として持つことで、マーケティング活動に一貫性が生まれます。
また、各部門が同じ顧客像や価値提案を共有することで、施策の整合性が取りやすくなり、意思決定のスピードやクロスファンクショナルな協力体制が促進されます。

ここでは、STP分析を進めるうえでの流れを、5つのステップに分けてご紹介します。 それぞれの段階で「何を分析し、何を決めるのか」をしっかり把握しておくことで、より実践的で効果的な分析につなげることができます。
セグメンテーションとは、ニーズや特徴が似ている顧客同士をまとめて、市場をいくつかのグループに分ける作業です。
こうして市場を細かく分けることで、それぞれのグループに合ったアプローチを考えやすくなり、ターゲットとなる顧客のニーズをより深くつかむことができます。
セグメンテーションを行う際には、一般的に、以下の4つの変数がよく用いられます。
人口統計学的変数。年齢、性別、職業、学歴、収入、家族構成など、人口統計学的な属性に基づいて、市場を細分化します。
心理学的変数。価値観、ライフスタイル、趣味嗜好、性格など、心理的な側面に基づいて、市場を細分化します。
行動変数。購買履歴、購買頻度、購買金額、製品の使用状況、購買プロセスなど、顧客の行動パターンに基づいて、市場を細分化します。
地理的変数。居住地域、気候、人口密度、文化など、地理的な要因に基づいて、市場を細分化します。
市場をグループ分けする際には、自社の商品やサービスの特性に合った「どんな基準で分けるか(切り口)」を選ぶことが大切です。
ここでは、セグメンテーションを進めるうえでよく使われる分類の例をご紹介します。
<セグメンテーションの軸>
| 業界 | セグメンテーション軸の例 |
|---|---|
| アパレル | 年齢、性別、ライフスタイル、ファッションの好み、体型、価格帯 |
| 食品 | 味の好み、食生活、健康志向、アレルギーの有無、利用シーン |
| 化粧品 | 肌質、肌の悩み、年齢、メイクの好み、使用感 |
| 旅行 | 旅行の目的、予算、旅行スタイル、同行者、興味のあるアクティビティ |
| 自動車 | ライフスタイル、家族構成、予算、使用用途、重視する性能(燃費、安全性、デザインなど) |
| 動画制作業 | 動画活用の目的(採用、ブランディング、商品販促)、予算、希望する動画のスタイル(実写、アニメーション、CGなど)、ターゲットとする視聴者層 |
ターゲティングとは、セグメンテーションによって細分化された市場の中から、自社が狙うべきターゲット市場を選定することです。
ターゲット市場を選定する際には、以下の「6R」と呼ばれる指標を考慮する必要があります。
十分な売上が見込める市場規模がありますか?小さすぎる市場規模では、投資を回収することが難しくなります。
今後、成長が見込める市場でしょうか?成長が見込めない市場では、長期的なビジネス展開が難しくなります。
競合がひしめく市場ではないでしょうか?競合の強みは?競合が多すぎる市場では、競争が激しくなり、利益を上げることが難しくなります。
ターゲット層に、製品やサービスを届けられますか?ターゲット層にリーチできない、または多大なコストがかかる場合、効率的なマーケティング活動ができません。
マーケティング施策の効果を測定できますか?効果測定ができないと、マーケティング施策の改善につなげることができません。
顧客や、社会に影響力のある人物がいますか?ターゲット層に、インフルエンサーなどの影響力のある人物が含まれていると、マーケティング効果が高まります。
これらの指標を用いて、各セグメントを評価し、自社にとって最も魅力的なターゲット市場を選定します。
ターゲティングには、主に以下の3つのタイプがあります。
複数の異なる市場ごとに、それぞれのニーズに合わせた製品やサービスを展開するマーケティングの考え方です。
たとえば、化粧品メーカーが年代別に商品を展開するようなケースのような20代向け、30代向け、40代向けといった具合に、それぞれに合った成分やデザインの商品を開発・販売することがこれに当たります。
市場を細分化せず、単一の製品・サービスを、すべての市場に提供する マーケティング手法です。
例えば、ティッシュペーパーや、乾電池などの日用品、または電力やガスなどのインフラストラクチャなどが該当します。
特定の市場に、経営資源を集中的に投下する マーケティング手法です。
例えば、高級外車メーカーが、富裕層向けに特化したマーケティング活動を行うようなケースが該当します。
スターバックスコーヒーは、「都市部に住む、感度の高いビジネスパーソン」をターゲットに設定し、駅周辺やオフィス街に多く出店し、大成功を収めました。
ポジショニングとは、ターゲット市場において、自社製品やサービスを、競合と差別化し、独自のポジションを築くことです。
ポジショニングを明確にすることで、顧客に自社製品やサービスの価値を効果的に伝えることができます。
ポジショニングを検討する際には、ポジショニングマップを作成するのが有効です。ポジショニングマップとは、顧客の認識を、2次元、または3次元の図表で表したものです。
一般的には、2つの軸を設定し、自社と競合他社を、それぞれの軸に基づいてプロットします。
ポジショニングマップの作成手順は以下の通りです。
以下は、ノートパソコンのポジショニングマップの例です。

このマップでは、「価格」と「性能」の2軸で、自社と競合他社のノートパソコンをマッピングしています。
このマップより、自社のノートパソコンは、「高価格・高性能」のポジションにあることがわかります。
ユニクロは、「高品質・低価格」という独自のポジションを築くことで、競合との差別化に成功しています。
STP分析で、自社のターゲット市場とポジショニングを明確にしたら、次に、マーケティングミックス(4P)を策定します。
4Pとは、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。
STP分析の結果をもとに、これら4つの要素を具体的に考えていきます。
STP分析は、一度実施したら終わりではありません。定期的に効果測定を行い、改善を繰り返すことが重要です。
マーケティング施策を実施した後は、売上、顧客数、顧客満足度などのデータを分析し、STP分析で設定した目標を達成できたかどうかを確認しましょう。
もし、目標を達成できていない場合は、STP分析の各要素や、マーケティングミックスの内容を見直し、改善を図ります。
このように、PDCAサイクルを回すことで、マーケティング戦略の精度を高め、ビジネスの成長につなげることができます。

STP分析は、効果的なマーケティング戦略を立案するための強力なフレームワークですが、いくつかの注意点があります。STP分析において大切なポイントは次の4つです。
STP分析は、一般的に、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングの順に進められます。
しかし、必ずしもこの順番通りに進める必要はありません。
例えば、先に魅力的な製品アイデアがある場合は、ポジショニングから検討を始めても良いでしょう。
分析を進める中で、行き詰まったり、新たな発見があったりした場合は、柔軟に前のステップに戻り、分析をやり直すことも重要です。
STP分析を進める際は、ターゲットとなる市場の大きさや成長のスピードをしっかり考えることが大切です。
市場が小さすぎると、思うように売上を伸ばすのが難しくなります。
また、成長が鈍い市場では、将来的に収益を拡大しづらい可能性もあります。
さらに、市場の状況は日々変わっていくため、STP分析は一度やって終わりではありません。
定期的に見直しながら、必要に応じて内容を更新していくことが重要です。
STP分析は、他のマーケティング・フレームワークと組み合わせて活用することで、より効果を発揮します。
特に、これから紹介するフレームワークとの組み合わせが有効です。
4C分析とは、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。
STP分析で設定したターゲット顧客に対して、どのような価値を提供できるのか(Customer Value)、顧客にとっての負担はどの程度か(Cost)、顧客にとっての利便性はどうか(Convenience)、顧客とどのようにコミュニケーションを図るべきか(Communication)を、より深く検討できます。
4P分析とは、以下の4つの要素の頭文字を取ったものです。
STP分析で設定したターゲットに対して、どのような製品・サービスを(Product)、どのような価格で(Price)、どこで(Place)、どのように販売するのか(Promotion)を検討できます。
これらのフレームワークと組み合わせることで、STP分析の精度を高め、より具体的で実行可能なマーケティング戦略を立案することができます。
STP分析を進めるときは、数字や事実などの客観的なデータをもとに考えることが大切です。自社の感覚や願望だけで市場を見てしまうと、実際の状況とかけ離れた分析になってしまうことがあります。
そのため、市場調査やアンケートなどを通して、できるだけ根拠のある情報を集めるようにしましょう。
また、出てきた結果をそのまま信じるのではなく、「本当にそうだろうか?」と疑う姿勢を持ち、いろいろな角度から見直すことも大切です。

ここでは、動画制作のプロであるMチームが、動画マーケティングにおけるSTP分析の活用方法を解説します。
STP分析で明らかになったターゲット層の属性やニーズに合わせて、動画の企画・制作を行うことで、ターゲットに刺さる動画を制作できます。
例えば、若年層をターゲットとする場合は、15秒〜30秒のショート動画やBGM付きテロップ演出を多用し、SNS向けのテンポ感を重視します。一方、ビジネス層には60秒以上の構成や、ナレーションを活用した構成が効果的です。
STP分析で明確化されたターゲット層に合わせて、YouTube広告やFacebook広告などの動画広告を配信することで、広告効果の最大化が期待できます。
年齢、性別、地域、興味関心など、詳細なターゲティング設定を活用することで、狙ったターゲット層に的確に動画広告を届けることができます。
STP分析で明らかになった競合のポジションと、自社の強みを踏まえ、独自のポジションを確立するための動画戦略を立案できます。
競合が配信していないような、独自性のある動画コンテンツを制作することで、ターゲット層の関心を集め、差別化を図ることができます。

STP分析を効果的に進めていくには、ツールの力を借りるのもひとつの手です。使う場面や目的に合ったツールを選べば、情報収集や意思決定のスピードがぐっと上がります。ここでは、STP分析に役立つツールを3つのジャンルに分けてご紹介します。
市場の大きさや成長の見通しをつかむには、まず信頼できるデータを押さえておくことが大切です。 以下のツールでは、日本国内の産業や市場に関する統計情報を幅広く確認できます。
競合のWeb戦略や流入経路、広告運用の傾向を把握することで、自社の差別化ポイントを見極めることができます。以下は、競合分析において特に活用される2つの代表的ツールです。
ターゲットとなる顧客の行動や心理を把握することで、マーケティング施策の精度を高めることができます。以下のツールは、Web上の行動データやアンケートなどから顧客理解を深める際に有効です。

以下に、STP分析を活用した具体的な企業事例を紹介します。それぞれの企業が、どのようにしてターゲット市場を選定し、競合と差別化されたポジションを確立したかに注目してください。
生命保険業界は、対面販売が主流でしたが、ライフネット生命は、「20〜40代の、子育て世代で、かつ、インターネットに抵抗がない人」をメインターゲットとし、オンライン生保という、全く新しい販売形態で成功しました。
ミネラルウォーター市場で、後発であった「いろはす」は、「環境意識の高い人」をターゲットとし、「エコで美味しい」という独自のポジションを築きました。

STP分析は、マーケティング戦略を立案する上で非常に有効なフレームワークです。
STP分析を活用することで以下の事ができるようになり、マーケティング活動の成功確率を高めることができます。
本記事を参考に、STP分析の基本的な理解を深め、今後の戦略立案に役立ててみてください。より実践的に活用するには、社内データを基にしたSTP設計や、動画コンテンツへの具体的落とし込みを意識することが重要です。
客観的な視点を忘れずに、着手の順番に囚われることなく進めることが肝心です。
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