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まずは、パーソナライズド動画がどのようなものかを理解することが大切です。ここでは、その定義や従来の動画との違い、そしてどういった形態で展開できるのかについて解説します。
パーソナライズド動画とは、顧客の名前や属性、過去の購入履歴、閲覧履歴などのデータを活用し、一人ひとりに合わせた動画コンテンツを自動生成する手法を指します。たとえば「○○さん専用のご案内です」という文字や音声が入る動画を、数百~数万ユーザー向けに個別に出し分ける、といったイメージです。
従来型の“一律に同じ映像を流す動画”とは異なり、視聴者ごとにカスタマイズされた情報が盛り込まれることで「自分専用の動画だ」と認識されやすく、高いエンゲージメントやコンバージョン率向上が期待されています。
パーソナライズド動画を実現する仕組みとしては、主に以下の流れになります。
CRMやMAツール、ECサイトの購買情報、メールアドレスと紐づく行動履歴などを活用します。
名前やテキスト挿入部分、商品情報の挿入部分など、カスタマイズ可能な枠を動画上に設定します。
制作ツールやプラットフォームを使い、各ユーザーの属性と動画テンプレートをマッチングさせて個別の動画を生成します。
メール本文に専用URLを載せる、またはLINEメッセージや会員専用サイトからアクセスできる形など、多様な方法で提供します。
従来型の動画は、すべての視聴者に対して同じ映像を提供し、汎用的なメッセージで訴求するスタイルが主流でした。これに対して、パーソナライズド動画は、個別のユーザーデータを活用して、名前やおすすめ商品、契約内容などの情報をリアルタイムで差し替えながら表示することができます。
そのため、視聴者は「自分宛ての動画」として受け取りやすく、特別感を抱きやすくなります。実際に、こうした個別対応によって離脱率やメールの開封率、クリック率が大きく改善されたと報告される事例も増えています。
パーソナライズド動画は、主に「データ活用型」と「インタラクティブ型」に分類されます。ここでは、顧客の属性や行動履歴などのデータを元に内容を個別最適化する「データ活用型」についてご紹介します。
会員IDや購買履歴などのユーザーデータを用いて、動画上に個々のテキストや画像を合成するタイプです。
例)ECサイトが「Aさん、先週購入した商品に合わせてこちらはいかがでしょう?」といったレコメンド動画を自動生成。
動画の視聴途中で視聴者が選択肢を選ぶと、分岐映像が再生されるなど、ユーザー参加型のパーソナライズを行う手法です。
例)金融商品の動画で「あなたの希望は安定か成長か?」と問いかけ、回答に応じて別々の解説映像が流れる形。

パーソナライズド動画を取り入れるメリットはさまざまですが、大きく分けてエンゲージメント向上やコンバージョン率向上などが挙げられます。ここでは、代表的なメリットを一つずつ見ていきましょう。
視聴者が「自分のために作られた動画だ」と感じることで、コンテンツへの愛着や理解度が高まります。ユーザーとの絆が深まり、ファン化を促しやすくなります。
パーソナライズド動画へのリンクを含むメールを送ると、「●●様専用動画です」といった件名に興味を惹かれ、開封率やクリック率が従来より大幅に上がるケースがあります。特にカゴ落ちメールや再購入促進メールに強力な効果を発揮します。
視聴者に対して、名前付きのメッセージや個人に最適化された商品・プランを動画で提案すると、「自分にぴったりのオファー」と認識してもらえます。結果として、商品購入やサービス申込みなどのコンバージョン率アップが期待できます。
自社から送られてくる動画が自分の契約情報や趣味を踏まえて作られていると、「この会社は私のことをよく分かってくれている」という満足感につながります。アフターサービスの案内動画などで個別対応すると、サポート品質の向上にも寄与します。
パーソナライズド動画はまだ導入事例が少ない分野も多いため、先行して取り入れることで「革新的な企業」「顧客に寄り添うブランド」というイメージを確立しやすくなります。ユーザーにも「こんな動画が届いた」という形でSNSや口コミで話題にしてもらえる可能性があります。
パーソナライズド動画を再生したユーザーが、どのシーンを長く見たか、どこで離脱したかといった細かな行動データを取得できます。これにより顧客インサイトを深堀りし、商品開発やマーケティング戦略の精度をさらに高められます。

パーソナライズド動画は多彩な業界や目的で活用できるのが特徴です。ここでは、ECサイトや金融業界、人材、不動産、旅行、BtoB、その他のケースに分けて、どのように活用可能かを紹介します。
ECサイトでは、ユーザーの購買履歴や閲覧履歴を活かし、個別におすすめ商品を動画で提示する活用法が注目されています。以下ではその代表的な方法を紹介します。
ユーザーの閲覧履歴や購入履歴に基づいて「あなたへのおすすめ商品」を動画内で紹介し、最後にリンクボタンを設置する手法です。視聴者は動画再生中に欲しい商品が見つかれば、すぐに購入ページへ進めます。
一度カートに入れたが購入に至らなかった商品を、名前入りの動画で改めて紹介します。動画内で割引クーポンや数量限定情報を示すと、再来店を促しやすいです。
商品を購入してくれたお客様に対し、使い方のチュートリアル動画を個別データでカスタマイズして案内することができます。アップセルやクロスセルのきっかけにもなります。
金融業界では、契約内容やサービス内容の説明を個人ごとにカスタマイズすることで、誤解や手続きミスを減らす取り組みが進んでいます。まずは「契約内容の確認」動画の活用について見ていきましょう。
ローン契約や保険契約など、複雑な内容を顧客固有の条件に合わせて動画化し、「〇〇様のプラン概要はこちら」と案内します。静止画の資料よりわかりやすく、質問やトラブルを減らせるメリットがあります。
口座開設や手数料の変更など、手続きのステップを動画で示す際、ユーザーの名前やIDを挿入して「●●様はこの手順でOKです」と誘導。ミスを防ぎ、カスタマーサポートの負担を軽減できます。
資産運用商品のシミュレーション結果を、顧客の年齢や投資額に応じて動画化する方法もあります。視覚的に将来のリターンやリスクを伝えられるため、商品理解を促進しやすいです。
求職者との接点を強化するため、人材業界ではパーソナライズド動画が導入されつつあります。企業紹介を個人に合わせてカスタマイズすることで、マッチングの精度を高める活用が進んでいます。
応募者のスキルセットに合わせて、企業のおすすめポジションや職場雰囲気を動画で紹介します。「●●様の経験に合った部署はここです」という訴求が可能です。
内定後のフォロー動画を個別に作り、「●●さんの部署はこんな環境です」と伝えることで、配属先や同僚の様子をイメージさせ、早期離職リスクを下げる効果が期待できます。
不動産業界では、物件の紹介にパーソナライズド動画を使うことで、静止画では伝わりにくい空間の雰囲気や魅力を視覚的に伝える事例が増えています。以下で詳しく紹介します。
閲覧や問い合わせ履歴をもとに、ユーザーの希望条件に合った物件を動画でまとめ、「●●様におすすめの物件はコチラ」とリスト化する手法です。写真では伝わりにくい間取りの雰囲気を動画で補います。
賃貸契約や売買契約の流れを、ユーザー固有の条件と合わせて動画でガイドすることで、書類不備や手続きミスを最小化できます。問い合わせの手間も減らせるため、サポートコストを下げるメリットがあります。
旅行業界では、顧客の年齢や過去の旅行履歴、興味関心に応じた動画提案が注目されています。中でも「旅行プランの提案動画」は、個々のニーズに寄り添った体験価値を高める手法として活用が進んでいます。
ユーザーの過去の旅行履歴やアンケート結果をもとに、行き先やホテルなどを動画でレコメンド。イメージカットを多用し、旅行気分を盛り上げながら「●●様向けのプランはこちら!」と案内します。
旅が終わった直後に、撮影写真や旅先の思い出を盛り込んだ“帰宅後動画”を送る例もあります。再訪問やリピーター化を促すほか、SNS投稿の誘導にも活かせます。
BtoB領域では、企業ごとに異なる課題や契約状況に応じた動画提案が有効です。特に商談前やアフターフォローの場面で活用される「サービス紹介動画」の活用例をご紹介します。
企業ごとの契約状況や業種に合ったソリューションを、パーソナライズド動画でプレゼンする手法です。商談前のアプローチやフォローアップに効果的です。
アンケート依頼をする際に「●●様のご利用状況はこちら」と可視化した動画を用いれば、回答率が高まりやすいです。自社製品の導入効果や運用データを個別に示せる点も強みです。
業種や業界を問わず、印刷物に動画を組み合わせることで、驚きや興味を引く施策が広がっています。ここでは、DMや請求書などに同封するパーソナライズド動画の活用方法を解説します。
印刷物のDMだけでなく、QRコードやURLでアクセスするとパーソナライズド動画が見られる仕組みを追加すると、驚きや興味を引きやすいです。
大企業でもスタートアップでも、採用ページや会社案内をパーソナライズド動画に切り替えて、視聴者(候補者・投資家など)に最適化されたメッセージを届ける事例があります。
内定通知や入社案内を個人向けに動画化することで、候補者との接触をスムーズに行い、オンボーディング体験を高める例も増えています。

効果的なパーソナライズド動画を作るには、データの扱いや動画テンプレートの設計など、従来の動画制作とは異なるポイントがあります。ここでは、その手順とチェックポイントを解説します。
最初に「何のためにパーソナライズド動画を作るのか」「誰に向けて提供するのか」を整理します。新規顧客獲得なのか、既存ユーザーのロイヤルティ向上なのか、解決したい課題をハッキリさせることで、データ選定や演出をズレなく行えます。
顧客の名前だけ差し込むライトな手法もあれば、過去の購入履歴、閲覧履歴、契約プランなど複数のデータを組み合わせる高度な方法もあります。利用できるデータとユーザーのプライバシーリスクを考慮して、どの情報を活かすかを決めましょう。
動画の構成・シナリオ作成においては、視聴者の関心を引きつけ、自然な流れでメッセージを届けることが鍵となります。
パーソナライズド動画では、カスタマイズされるパートと汎用パートのバランスが重要であり、最初の設計段階でしっかりと構成を練ることが成功のカギとなります。
パーソナライズド動画では、多くのユーザーに共通する部分(イントロ・アウトロなど)と差し替える部分(名前、画像、テキスト)をテンプレート化します。専門ツールを使えば、差し込み箇所を自由に配置できる場合もあります。
テンプレートに依存せず、完全オリジナルで動画を設計する方法もあります。自由度は高いですが、そのぶん工数やコストも大きくなるため、予算や納期と相談して選ぶのが良いです。
パーソナライズド動画の土台部分となる映像を撮影し、編集ソフトで汎用的なパートを作ります。そのうえで、差し込み部分のレイアウトを確保しておき、テキストや画像を合成して最終的な動画を完成させます。
近年は、クラウド上で編集テンプレートを管理し、データベース連携によって自動的に動画ファイルを生成するソリューションも増えています。
動画を配信した後は、再生率やクリック率、視聴者の行動データなどを収集し、次回の改善につなげます。特にパーソナライズ部分がユーザーにとってどう響いたか(動画再生時間、離脱ポイントなど)を分析すると、より高度なパーソナライズや演出アイデアを得られるはずです。

パーソナライズド動画を使用したマーケティングでは、ターゲット顧客数に応じた大量の動画を制作・配信する必要があります。動画制作・配信サービスを活用するとよいでしょう。
パーソナライズド動画の動画制作・配信サービスでできることはサービスによって異なりますが、大きく以下のとおりです。
リスティング広告を作成し、運用しながらデータを収集して、分析結果をもとに広告を再度配信をする流れに似ています。パーソナライズド動画を制作するにあたって企業内で事前に準備する必要があるのは、ターゲット顧客の属性情報やWeb閲覧履歴などの顧客データです。
おすすめのパーソナライズド動画制作・配信サービスを3つご紹介します。

PRISMは、株式会社クリエ・ジャパンが提供するパーソナライズド動画生成エンジンです。
ターゲット顧客の興味・関心に合わせて動画の内容を変化させる「インタラクティブ機能」や、特許第6147776号の「Mpeg動画ファイル生成方式」による、端末に依存しない正確な表示を実現し、ほかの動画制作・配信サービスと差別化されています。
活用できるデータは幅広く、Web閲覧履歴・契約履歴・診断履歴・顧客属性・購買履歴があります。SNSやメールの動画生成・配信も可能で、自社でパーソナライズド動画制作と配信を行いたい企業に適しているでしょう。

One Dougaは、法人向け動画配信サービスです。
一人ひとり異なる内容の動画を生成するバリアブル動画生成技術を用いています。ベース動画に素材(テキスト・画像・音声)を自動で合成する「自動動画合成エンジン」と、パーツ動画を自由に組み合わせて1本の動画を生成する「動画結合機能」によって、ユーザー属性や行動履歴に合わせた動画の出し分けを可能にしている点が特徴です。
専用チームが導入から運用までワンストップでサポートしてくれるので、まずはホームページから入門資料をダウンロードしましょう。

livepassはパーソナライズド動画生成サービス「livepass Catch」を提供する会社です。
パーソナライズド動画を配信する場合、レンダリング(動画の事前生成)が必要なのが一般的です。livepass Catchではリアルタイム生成が可能なので、大量の配信を一気に行うことができます。
豊富なテンプレートがあるので、比較的簡単に質の高い動画制作が可能です。まずは、ホームページからサービスに関して問い合わせをしてみましょう。

パーソナライズド動画を活用したマーケティングの具体的な事例をご紹介します。それぞれの企業がどのようなアプローチで動画を作り、どのような結果を得たのかをぜひ参考にしてください。
チューリッヒ保険が、自動車事故の解決までの流れを説明するために制作したパーソナライズド動画です。最初にターゲット顧客の名前を呼びかけ、お見舞いの言葉を伝えることで、安心感をもてるように配慮されています。
専任担当者がつくこと、保険金や修理の話なども動画でわかりやすく解説していることが特徴です。パーソナライズド動画での不明点は最後の画面から問い合わせができるので、顧客にとって非常に親切な作りといえるでしょう。
イギリスのお菓子・飲料メーカーのキャドバリー社が制作したパーソナライズド動画です。海外マーケットのシェア拡大のために制作されました。
動画内にはFacebookからターゲット顧客の写真や名前が取り込まれ、動画内容が自分事として感じられるように工夫されています。
WebBureau Movie(ウェブビューロー ムービー)が制作した、信託銀行が顧客に資産運用状況を説明するパーソナライズド動画です。
動画内で顧客名・運用プラン・運用結果などがインタラクティブに行われ、顧客一人ひとりに最適化したOne to Oneコミュニケーションを実現しています。アニメーションや図・表を使ったわかりやすい動画になっています。
マニュライフ生命が、「ご契約内容のお知らせ」をわかりやすく案内するために制作したパーソナライズド動画です。冒頭で視聴者の名前を口にすることはありませんが、画面にはしっかりと氏名が表示され、自分だけの特別なコンテンツだと感じさせる作りになっています。
動画には契約内容や契約日など、視聴者個人の契約情報が盛り込まれており、ユーザーによって映し出される内容が異なる点が特徴です。たとえば30代の顧客であれば、30代向けに必要な説明や注意点が中心に表示され、ほかの年代に向けた情報を長々と見る必要がありません。
視聴者に合わせた案内だけが流れるため、時間短縮と情報の的確化の両方を実現しています。もし動画を見て疑問が生じても、最後の画面から問い合わせを行えるなど、ユーザーフレンドリーな設計が高く評価されています。
イギリスの菓子・飲料メーカー「Cadbury」が海外マーケット拡大を狙って制作したパーソナライズド動画です。プレゼント用のチョコレートにQRコードが付いており、受け取った人がQRコードを読み込むと、Facebook上の写真や名前が動画内に自動で取り込まれる仕組みになっています。
動画内で視聴者本人の顔写真が登場することで、「特別なギフトをもらった」と感じてもらいやすく、CTR(クリック率)やコンバージョン率の向上を狙っています。また、「チョコレートは想いのこもった贈り物」というブランドメッセージを自然に伝えられるため、商品イメージの訴求にも効果的です。大勢のユーザーが自身のパーソナライズド動画をSNSにシェアすることを想定しており、“話題になりやすい”キャンペーン設計が高く評価されています。
レッドオーシャンの美容業界では、経営の重要指標である新規リピート率が2〜3割と非常に低い状態でした。美容室Ameriでは、新規顧客の来店日や施術メニュー、担当スタイリストの情報を組み合わせて、担当スタイリストからのオリジナルメッセージ動画を配信しています。
顧客と良好なコミュニケーションを取り関係性を深めることで、高い新規リピート率を実現した事例です。

リコージャパンが、セミナー集客のためにDMとパーソナライズド動画を組み合わせて高い集客効果を実現した動画です。
セミナー参加の見込み客に最適化した内容とQRコードが記載されたDMを作成し、見込み顧客にDMのQRコードを読み込んでもらうことで「PRIZM」で生成された個別動画を視聴してもらえます。過去7回のセミナー申し込み率5.1%から14%へと大幅アップに成功した好例です。
引用元:PRIZM実績紹介|note

パーソナライズド動画は高い効果が期待できる一方で、データ取り扱いや制作コスト、品質管理などの課題も存在します。ここでは、導入前に知っておくべき注意点をまとめます。
顧客データを動画に反映するため、個人情報保護法やプライバシーポリシーに違反しないよう注意が必要です。取得しているデータをどこまで動画に表示してよいのか、ユーザーの同意を得られているかを必ず確認しましょう。
大量生成された動画は、クオリティが低いと逆効果になりかねません。名前表示や商品紹介部分にズレがないか、音声やテロップが読みやすいかなど、品質管理が重要です。特に自動合成するテンプレートのデザインやレイアウトを入念にチェックしてください。
パーソナライズド動画は従来型よりシステム連携やツール費用が高くなる可能性があります。導入時には、ROI(投資対効果)を試算してから着手するのがおすすめです。小規模テストから始める方法もあります。
動画を配信して終わりではなく、再生率やクリック率、CVRなどの指標をモニタリングし、分析・改善のサイクルを回すことが成功のカギです。データ活用とレポーティング体制を整え、次回の動画制作や他のマーケ施策に活かしましょう。

本記事では、パーソナライズド動画の仕組みやメリット、活用事例、制作のポイントまでを幅広くご紹介しました。
顧客一人ひとりに最適化された動画は、エンゲージメントやCVRの向上につながる強力な手法です。
競争が激しくなる今こそ、「パーソナライズ」という視点からマーケティングを見直してみてはいかがでしょうか。
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