照明に対して、単純に「被写体を明るくする」ことのみが目的と考えている方もいるのではないでしょうか。実は、照明について正しく理解することが撮影した動画の画質にも関わってくるということをご存じでしょうか。
動画撮影における照明の役割は、大きく以下の2つです。
いわずもがな、照明の主な目的は「被写体を照らす」ことにあります。暗い室内や屋外などでは、必要な情報を視聴者に伝えるために照明は必要不可欠です。一般的な照明のみで室内で動画を撮影すると、登場人物の表情などを正しく伝えることは難しいでしょう。
被写体を魅力的に照らす方法として、3つのライトを利用する「三点照明」も、動画撮影におけるライトの使い方としてポピュラーな方法です。
動画の画質はもちろん撮影するカメラの性能に依存します。実は、このカメラの性能を最大限に発揮するためには照明が非常に重要なのです。
カメラには、カメラに取り込む光の量を表す「ISO感度」という数値があります。ISO感度は、カメラごとに上限があるものの、撮影時にある程度調整することができます。ISO感度は高ければ高いほど光量の少ない(暗い)シーンでも明るく撮影することができます。撮影場所が暗すぎて被写体がよく見えない場合でも、ISO感度を高く設定することで、必要な明るさの動画として撮影することが可能になります。
ISO感度は、物理的な光量を調整するわけではなく、カメラが取り込んだ光をデジタル処理で増幅して明るく見せる機能です。そのため、ISO感度は高くすればするほど画質が悪くなるという特徴もあります。高画質の動画を撮影するためには、カメラのISO感度を調整する必要がないように、必要な面積、光量が得られる照明を正しく使用することが重要です。
動画撮影に使用される照明は「定常光」や「ビデオライト」と呼ばれるもので、常に決まった照度で光り続ける照明器具です。主に写真撮影に使用される瞬間光(フラッシュ・ストロボと呼ばれるもの)は動画撮影時には基本的には適していないため、注意が必要です。そのほかにも動画撮影用の照明にはいくつかの種類があるため、用途にあった照明を選ぶことが重要です。
動画撮影用の照明(定常光)は、主に以下の4つです。
LEDは、光量が少ない点や照明自体の価格の高さから少し前まではあまり普及していませんでしたが、技術の進歩に伴い、どちらの課題も解決されたため、ここ数年で急速に普及してきたライトです。そのほかの照明と比べて、寿命が長いことや消費電力が少ないことなどもLEDの特徴です。
白熱灯は、その名のとおり発光に発熱を伴うタイプのライトです。発光時に発熱を伴う(発光以外にエネルギーを消費している)ため、消費電力に対して発光量が少ないことが特徴です。古くから一般家庭を中心に利用されていましたが、寿命の短さや消費電力の多さなどから徐々に蛍光灯を利用する家庭が増えたため、現在では数が減っています。
蛍光灯は、一般家庭や撮影現場など、さまざまなシーンで最もよく使用されているライトです。商業施設などでよく目にする棒状の細長いタイプのものから、一般家庭で利用するリングタイプのもの、電球タイプのものなど、利用するシーンに合わせてさまざまな形の蛍光灯が販売されています。
蛍光灯はLEDに比べると安価で購入でき、白熱灯のような発熱もないため汎用的なライトといえます。また、白熱灯に比べると寿命も長いため、ある程度の期間、同様の条件下で撮影を行うようなケースにも適した照明です。
蛍光灯を動画撮影時に使用した場合、撮影した映像がチラつくことがあります。これは「フリッカー現象」と呼ばれるもので、蛍光灯を動画撮影用の照明として購入する際は、後述の「フリッカー現象」について理解したうえで購入するようにしましょう。
フリッカーとは蛍光灯のチラつきのことで、フリッカー現象とは動画撮影時に蛍光灯のチラつきによって画面がチカチカしてしまう現象を指します。フリッカー現象は、蛍光灯が電源の周波数(東日本では50ヘルツ、西日本では60ヘルツ)の2倍の周波数で点滅・発光していることが原因で起こる現象です。
東日本であれば、蛍光灯は1秒間に100回点滅を繰り返して発光しています。そのため、シャッタースピードが1/100秒を超えるカメラで動画撮影を行うと、蛍光灯の点滅をカメラが捉えてしまうため、画面がチカチカとチラついてしまうフリッカー現象が起こります。中には、フリッカー現象を抑える「フリッカーレス機能」が搭載されているカメラもあるため、蛍光灯ライトの購入の際は撮影に使用している機材の機能やスペックをあらかじめ確認するようにしましょう。
HMIは、メタルハイドランプを使用した光量が強いライトです。太陽光のような強い光が特徴のライトで、映画・ドラマなどプロの現場で利用されています。価格は非常に高く、消費電力もそのほかのライトに比べると高いという特徴があります。価格や特徴面から、よほど光量が必要な屋外での撮影でもない限り、動画撮影用のライトとしてHMIを購入することはおすすめしません。
LED、白熱灯、蛍光灯、HMIにはそれぞれ異なる特徴があります。それでは、それぞれの特徴が動画撮影時にどういった影響があるのか、それぞれの特徴から動画撮影用の照明の選び方を見ていきましょう。
動画撮影用の照明を選ぶ際に基準は、主に以下の5つです。
動画撮影時に照明を使用する主な目的は「被写体を照らすこと」にあります。光源の面積・形状は、どの程度の大きさの被写体をどういった照らし方をしたいかで適したものが変わってきます。
代表的な例でいうと、顔を出して撮影するYouTuberはよく「リングライト」と呼ばれる丸い輪になっているLEDライトを利用しています。リングライトがよく使われる理由は、顔全体がまんべんなく照らされ、瞳の中に丸い光の輪が映り込むことで目が輝いて見えるためといわれています。リングライトとは対照に、一点から光が照射されるようなタイプのライトは、照らしたい対象をピンポイントで照らすことができるため、何かを強く強調したい際に重宝されています。
照度とは、照明の明るさを表す言葉で、光量自体を表す「ルーメン」と、照らされている面の明るさを表す「ルクス(Lux)」の2つ数値があります。一般的に、照明と被写体の距離が遠い場合や撮影場所自体が暗い場合などは、照度が高い照明がよいとされています。
演色評価数とは、照明が被写体の色に与える影響を表した数値です。「CRI」という単位で表現され、この数値が100に近いほど被写体の色味に与える影響が少ないとされています。「Ra」という単位で表現されている場合もありますが、厳密にいえばRaは単位ではなく、CRIの計算式に用いられる記号の1つです。現在では、CRIの単位としてRaを用いて紹介するケースも見かけられるため、照明器具においてRaは演色評価数を表すものと理解しておいてもよいかもしれません。一般的にCRI90以上が高演色と呼ばれているため、動画撮影用としてもCRI90以上の高演色ライトがおすすめです。
動画撮影用の照明は、撮影機材や録音機材と比較的近い位置で使用されるケースがほとんどです。そのため、動画撮影時に余計な音を録音しないためには照明機材の静音性も重要となります。照明自体が発熱するタイプは、冷却用のファンが搭載されていることがあります。ふだんは気にならないファンの音なども動画撮影時には雑音となりやすいため、注意が必要です。
動画撮影を繰り返し行う場合、照明機材の消費電力も気になるポイントです。消費電力が高いものは、もちろん電気料金も高くなります。また、屋外では基本的にバッテリーを利用して照明を点灯させます。消費電力が高いと、その分バッテリーの消費も激しいため、容量の大きいバッテリーや予備バッテリーの購入などを検討する必要があります。
動画によって適している照明機材がさまざまなのと同様、照明の当て方も撮影したい動画の内容や被写体によってさまざまです。ここからは、幅広い動画撮影で重要となる「三点照明」について解説していきます。
三点照明とは、以下の3つの照明で被写体を照らす方法です。
キーライトは、撮影で使用するメインのライトのことで、3つのライトの中で最も光量の大きなライトを指します。被写体を正面から撮影する場合、キーライトは正面に配置せず、斜め45度の被写体よりやや高い位置から照らすようにすることがポイントです。
フィルライトは、キーライトの補助として利用するライトのことで、キーライトが当たらない部分とキーライトによって生じた被写体の影を軽減する目的で使用されます。フィルライトは、キーライトよりも光量の少ないものをカメラに対してキーライトと反対側、キーライトよりも下側から照らすように設置します。
バックライトは、リアライトとも呼ばれ、被写体の後ろから照らすように設置するライトのことを指します。主に被写体の輪郭を際立たせる目的で使用され、背景と同系色の被写体を撮影する際や、撮影場所が暗い際などに重宝します。光量を大きくすると、より被写体の輪郭がくっきりと映るため、表現したいものによって光量を調整することがポイントです。
バックライトは、被写体の後ろにある程度のスペースが必要なことや光量の調整が重要なことなどから、初心者には少し難易度の高い照明の当て方でもあります。バックライト(場合によってはフィルライトも)は、どのような動画撮影においても必ずしも必要というわけではありません。しっかりと光量のあるキーライトを正しく使用するだけで、十分な光量が得られるケースも少なくありません。
撮影したい動画にそれぞれのライトが必要かどうかわからない場合は、すべてのライトを揃える前に、似たシチュエーションでキーライトのみを使って撮影してみることをおすすめします。
ここまで動画撮影における照明の重要性、照明の種類や照明の選び方を解説してきました。それらを踏まえたうえでも、無数に存在する動画撮影用の照明の中から最適な照明を選択するのは至難の業です。
そこで今回は、いくつかのシーンで使用可能なおすすめの照明を6つご紹介します。人気の商品は使用しているユーザーが多いため、インターネットで検索することで使用感や使用方法の詳細などを確認できます。迷った方は、これからご紹介する人気の商品から始めてみるのもおすすめです。
NEEWERから販売されている本格派LEDビデオライトです。
ウォーホワイトとクールホワイト、2色のLEDライト、自立用スタンドがセットになっており、別売りのリチウムイオンバッテリーを購入すれば屋外での使用にも耐えうる性能が魅力の商品です。2万円以上と決して安くはない商品ですが、高い照度や色温度、CRIも96以上と値段以上に高品質なLEDライトセットです。
YONGNUOから販売されているLEDライトで、10年近くもの間、多くのユーザーに利用されている人気の商品です。10年前の商品とは思えないほどのスペックがあり、照度や色温度が高く、演色評価数もCRI90と必要十分な1台といえます。
自立スタンドこそ付属しないものの、Bluetoothで接続可能なリモコンが付属しているため、遠隔操作ができる点も動画撮影で利用する方にとっては魅力的です。
NEEWERから販売されている自立式のLEDライトです。本体であるLEDライトに加え、高さ調節が可能な三脚スタンドやカラーフィルターが付属しているパック商品です。
屋内での動画撮影であれば十分な光量を得られるうえに、消費電力も少なく、本体価格も5,000円以下と経済的な点が魅力的な商品です。
NEEWERから販売されている自立式のLEDリングライトです。十分な光量が得られるリングライトとして、多くのYouTuberが愛用しているライトの1つです。
付属のアタッチメントでリングライトの中央にスマートフォンを設置することもできるため、スマートフォンを利用したライブ配信など、さまざまなシーンで使いやすい点が特徴です。CRI92と演色性も高く、自然な色味で動画が撮影できるところも、多くのYouTuberに愛されている理由の1つです。
Kimwoodから販売されている小型のリングライトで、小型・軽量な点とライト自体にクリップが付いている点が最大の特徴です。クリップを使うことでPCやタブレットに直接固定することができるため、主に自撮りのような動画を撮影するYouTuberに人気のライトです。
小型ながら、色温度の調節が可能なため撮影場所に合わせた調整ができることや、電源がUSBから直接取れることなど小回りの利く設計になっている点が人気の理由の1つです。
Ulanziから販売されている小型のLEDライトで、主にジンバルと呼ばれるアタッチメントを手持ちカメラに装着して利用されています。カメラの底面にあるネジでさまざまなジンバルに装着可能なため、PCや屋外で撮影する際の手持ちカメラなど幅広いシーンで利用可能です。
小型・軽量かつジンバルへの装着可能という点から、GoProなどを利用したVlog撮影などに適したライトとして多くのユーザーに人気です。
動画撮影用の照明と一口にいっても、その機能や仕様はさまざまです。数千円〜数万円と1台あたりの費用も機能やメーカーによってさまざまなため、購入の際は必要な機能や性能を満たしているかをあらかじめ確認するようにしましょう。
今回は、高いクオリティの動画撮影に必要不可欠な照明機材についてご紹介してきました。
一段上の動画撮影を行うために、これから照明の購入を検討している方は、ぜひこの記事を参考にしていただければと思います。これから動画撮影用の照明を購入するという人は、まずはキーライトのみで撮影、キーライトのみの撮影に不満を感じている人はフィルライト、バックライトなどを購入し、三点照明にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
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