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UXデザインとは、ユーザーエクスペリエンスデザイン(User Experience Design)の略称で、直訳すると「使用者の体験設計」です。つまりUXデザインとは、商品・アプリ・サイトを利用する人の体験全体を設計することなのです。
例えば、あるフレンチレストランで食事をする場合を考えてみましょう。
あなたはレストランのドアを開け、明るい店内に入ります。壁にかかった個性的な絵画に興味をひかれながら、大きな窓のそばの椅子に座り高級感のあるメニュー表を眺めます。中世ヨーロッパ風の制服を着たウェイトレスにメニューを注文し、サービスのコーヒーを飲みながら食事が出てくるのを待ちました。やがて厨房から漂ってくる料理の香りが、食欲を刺激します。真っ白のお皿に載ったメニューはとてもおいしそうです。窓の下に見えるクリスマスツリーを眺めながら、食事を楽しみます。会計をすると、お店の名前が入った綺麗なカードをもらえました。素敵な休日の食事に大満足です。
UXデザインは、あなたが店に入り、内装を、窓の外の景色を、料理の香りを楽しむすべての体験全体を対象にします。レストランの内装・メニュー表のデザイン・ウェイトレスの服装など、外見に関するデザインはUXデザインの一部に過ぎないのです。なお、UXデザインという言葉は、ソフトウェアやWebサービスなどデジタルな製品開発の現場で用いられることが多いです。
しかし、利用者の体験をデザインするUXデザインは、工業やサービス業など、さまざまな分野に適応できる考え方です。
UXデザインと似ている言葉に、UIデザインがあります。UIデザインとは、ユーザーインターフェース(User Interface Design)の略称で、直訳すると「利用者の接点設計」です。製品の中でユーザーが直接目にする部分のすべてをUIデザインと捉えると分かりやすいです。
例えば、Webサイトについて考えてみましょう。フォントサイズ・フォントの種類・アイコン・サイトの配色・構成など、サイト訪問者が見たり操作したりする部分を設計するのがUIデザインとなります。
UIデザインは、ただ見た目を整えるだけにとどまりません。どんなにスマートなデザインのサイトでも、メニューがどこにあるのか分かりにくいサイトやアイコンが抽象的で何を表しているのか不明なサイトは、ユーザーが早々に離脱してしまうのではないでしょうか。ユーザーが目的を達成しやすく、使いやすいデザインを目指すのがUIデザインです。
このように考えれば、UIデザインはUXデザインを達成するための手段の一部と捉えることができます。UXデザインはユーザーの体験を作り出すものでした。そのユーザーの体験を作るために、具体的な形を設定していくのがUIデザインといえます。
ただし、この逆は成り立ちません。UIデザインを先に作ってから、UXデザインを考えることはできないのです。
例えば、どれだけ10代が使いやすいUIデザインを作ったとしても、UXデザインで想定されているターゲットが50代では意味がありません。UIデザインはUXデザインにとって重要な要素ですが、UXデザインと独立して捉えるべきではないといえるでしょう。
UXデザインはユーザーの体験を設計するという考え方でした。UXデザインを行うには、ユーザーのニーズ・行動・ゴールをしっかり設定しなければなりません。ここではUXデザインに取り組む手順を具体的にご紹介します。
UXデザインの主役は、ユーザーそのものです。UXデザインを行うには、まずターゲットとするユーザーのことをよく調べる必要があります。このユーザー評価の段階では、まだ製品やサービスは形になっていません。そのため、この段階の調査では「ある機能の使い勝手がいいか」といった量的な評価をするわけにはいかないのです。調査の対象は、まだ見ぬ製品ではなく、ユーザーそのものの行動・目的・価値観などです。数値にできないものを調査するため、定性評価の方が向いています。インタビューなどの手段も有効です。
ユーザーの調査は、UXデザインの方向性を決めるとても重要なステップです。調査対象をどのように設定するか、しっかり計画してから調査を始めるようにします。
ユーザーの調査結果をもとに、ターゲットとなる架空のモデルを数名作ります。そして、カスタマージャーニーマップの作成を行っていきます。
カスタマージャーニーマップには、ユーザーの行動とともに、利用前・利用中・利用後の感情や困っていること、こうだったらいいなと思っている課題的内容も書き込んでいきます。また、製品を使って何を達成したいかというゴールも書き出します。
カスタマージャーニーマップの作成で重要なのは「企業目線にならないこと」です。開発者の側の視点を入れてしまうと、どうしても製品にとって都合のいいペルソナを作り出してしまいがちです。
しかし、これではよいUXデザインは生まれません。ユーザー調査の結果をしっかり反映したカスタマージャーニーマップを作成しましょう。
ユーザー調査・ユーザー分析をもとに、課題解決のアイディアを考え、製品の企画を練り、プロトタイプ(試作品)を作成します。
この段階まで来て初めて、一般的なデザイン作業が行われることになります。
プロトタイプに対し、使い勝手の評価や不具合の発見を目的とするユーザビリティテストを行います。ユーザーの需要にあったものか・製品を使用してユーザーが目指すゴールにたどり着けるかなどを検証します。
なお、最初に行うユーザー調査は人を対象とした調査でしたが、ユーザビリティテストは、製品=モノを対象にした調査です。
UXデザインは特別なものではありません。日常的に使われているさまざまなサービスにUXデザインが生かされています。
個人はもちろん、職場の連絡や企業の宣伝にも積極的に使われているLINEは、時系列に並ぶメッセージ一覧が特徴です。LINEのようなツールが登場する前、メッセージのやり取りはメールを通して行われるのが一般的でした。
しかし、メールは一通一通が別の画面で表示され、会話の全体的な流れを把握するのが困難でした。一方、LINEでは、コミュニケーションしている相手との会話の流れが最初から最後まで同じ画面にフキダシで表示されます。また、バラエティ豊かなスタンプを使えば、文字入力が苦手な人や時間がない人でも気軽にリアクションができます。
こうしてLINEは、年代を問わず簡単にコミュニケーションができるという「ユーザー体験」をデザインしたのです。
メルカリは、家にある不用品を手軽に売買できるフリマアプリです。メルカリはUXデザインを非常に重視しており、ユーザーの意見を反映するためのユーザビリティテストを週一回のペースで実施しています。この結果、よりよい「ユーザー体験」に繋がる改善が何度も行われてきました。
例えば、写真データから商品を絞り込める画像検索機能について、当初は写真内に写りこんだ別の商品を検索してしまうという問題点がありましたが「写真を撮りなおす」という行動はユーザーの立場に立てばマイナスになります。そこで、被写体が複数映っていても、1つの被写体を選んで検索が可能な機能が開発されました。
株式会社ZOZOが運営するアパレルECサイト「ZOZOTOWN」も、ユーザーの膨大な情報を収集してUXデザインに生かしている企業です。
通販サイトで衣料品を買うとき、ユーザーの大きな悩みとなるのはサイズ問題です。試着ができない通販サイトでは「買ってはみたけれどサイズが合わない」という事態がたびたび起こります。もともと服にはS・M・Lの3種類程度しかサイズがなく、自分にぴったりのものを選ぶのは難しいのです。
ZOZOでは、20~50といった膨大なサイズの服を提供し、ユーザーが自分の体型に合う服を選べる「体験」を提供しています。
Coke ONはコカ・コーラの公式アプリで、対応している自動販売機の前で操作すれば、自販機にまったく触らずにジュースを購入できます。さらに、ジュースを購入するとスタンプがもらえ、スタンプを15個集めると、無料でジュース1本と交換できます。
スタンプを手に入れる方法は、ジュース購入以外にも各種イベントに参加する・ウォーキングをするなど、複数用意されています。このアプリはスタンプ集めというユーザー体験を上手に使ったデザインになっているのです。
スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社の理念は「体験を売る」ことです。ただコーヒーを外で飲むだけなら、自販機やコンビニで十分です。それでもスターバックスに人が集まるのは、バリスタが入れてくれた特別なコーヒーを洗練された店内で楽しむ「経験」が魅力的だからです。
スターバックスはデジタル業界以外でもUXデザインが使われていることを気付かせてくれる事例です。
UXデザインに必要なスキル・役立つ資格をご紹介します。
UXデザインの工程では、インタビューでユーザー調査を行うことがあります。ユーザー調査の段階では、アンケート調査のような単純なものではなく、もっと広い範囲の回答を収集したいところです。インタビューのスキルがあれば、UXデザインに活かせるでしょう。
UXデザインは幅広い業界に応用できる概念ですが、主流はやはりデジタル業界と言えます。Web上の流行を分析し注目を集めるためのスキルとして、SEOの知識は重視されるでしょう。
企業が行うUXデザインの最終目標は、シンプルに言えば利益を上げることです。ユーザー体験向上の先にどうやって利益を追求するかを考えるためには、マーケティングスキルが必要です。
ウェブデザインに関する資格はいくつかありますが、その中で唯一の国家資格となるのが、このウェブデザイン技能検定です。ソフトの使い方・プログラミング・ネットワーク技術まで幅広い知識を身に付けることができます。
人間中心の設計、つまりユーザーを中心としたデザインの専門家を認定する資格制度です。受験には、UXデザイン等の実務経験が最低でも2年以上必要です。求められるレベルの高い試験ですが、UXデザイナーのプロを目指すうえで指標になる資格といえます。
最後に、UXデザインを学ぶうえで、参考になる本や著名人についてご紹介します。
任天堂でWiiの企画に携わっていた著者の「ユーザー体験の作り方」ハウツー本です。UXデザインってむずかしそう、と感じている方はぜひ読んでみてください。語り口にユーモアがあり、エッセイ本を読んでいる間隔で「体験を作り出す」という意味について学べます。
UXデザイン入門者のために、UXデザインをするための方法を一から丁寧に解説している本です。架空のオンラインショッピングモールでデジカメを購入するユーザーの「体験」をどのようにデザインするのかを例に、UXデザインが形になっていく工程を追体験できます。実際に開催されたワークショップの内容をもとにしているため、具体的な作業の流れをイメージしながら学ぶことができるでしょう。
UXデザインの歴史・基礎知識・具体的な手法・プロセスまでを一冊にまとめた本です。題名の通り、教科書的な内容であまり遊び心はありません。まったくの初心者の場合は敷居が高いかもしれませんが、UXデザインを体系的にしっかり学びたい人は一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
糸井 重里さんは、コピーライター・作詞家・エッセイストなど幅広い業界で活躍し、日本のモノづくり業界をけん引してきた有名人です。数多くの人を引き付ける魅力の根源を見つけてみましょう。
UI・UXデザイナーでもありWebディレクターなどのお仕事もされている灰色ハイジさんは、サンフランシスコを中心に働くフリーランスで、新しい働き方に興味がある人にも参考になるのではないでしょうか。目に留まる華やかなデザインのツイートが楽しいです。
落合 陽一さんは、メディアアーティスト・情報学者・タレントとしても活躍する、多彩な顔をもっています。UXを考える情報入手先として、フォローしてみてはいかがでしょうか。
UXデザイナーのHiroki Hosakaさんは、初心者向けの『UXデザインのやさしい教本』を監修された方です。デザインに関するツイートが多めで、仕事熱心なイメージを受けます。ツールなどの情報紹介もしてくれています。
UXデザインはユーザーの体験を設計するデザインのことで、UXデザインを行うには、ユーザーの視点をしっかり分析することがとても重要です。色や形だけでなく、ユーザーの定見そのものをデザインするUXデザインは、従来のデザイン知識とはまた異なった知識が求められる世界といえるでしょう。
UXデザインを始めようと思っている方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
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