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急速に進化するVR(バーチャルリアリティ)技術は、広告の在り方を大きく変えつつあります。
従来のメディアを通じた一方的な情報発信ではなく、ユーザーが仮想空間に没入し、実際に体験しているかのような感覚を得られることがVR広告最大の特長です。
ここでは、「VR広告とは何か?」という基本的な疑問に答えながら、その具体的な仕組みと従来の広告手法との違いを見ていきます。
VR広告とは、VR(バーチャルリアリティ)技術を活用した広告の総称です。従来の広告が、テレビや雑誌、ウェブサイトなどのメディアを通じて、一方的に情報を発信するのに対し、VR広告は、ユーザーを仮想現実の世界に没入させ、商品やサービスをよりリアルに、より魅力的に体験させることを可能にします。
VR広告は、主にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)と呼ばれるゴーグル型のデバイスを装着して視聴します。
HMDは、ユーザーの頭の動きをトラッキングし、それに応じて視界を変化させることで、まるでその場にいるかのような没入感を生み出します。さらに、コントローラーやセンサーなどを活用することで、ユーザーの行動に反応するインタラクティブな体験を提供することも可能です。
これらの技術によって、現実と見紛うばかりの広告体験をユーザーに届けることができるのです。
VR広告には、主に以下のような種類があります。
360度動画広告は、ユーザーが360度全方位を見渡せる動画広告です。スマートフォンの画面をスワイプしたり、パソコンの画面上でマウスをドラッグしたりすることで、自由に視点を変えることができます。HMDを装着して視聴すれば、さらに高い没入感を得ることができます。観光地のPRや不動産物件の内覧など、空間的な広がりを表現するのに適しています。
VRゲーム広告は、VRゲームの世界観やキャラクターを活用した広告です。ゲーム内に商品やブランドロゴを登場させたり、ゲームのストーリーに組み込んだりすることで、ユーザーに楽しみながら広告に触れてもらうことができます。ゲームの世界に没頭できるため、ユーザーへの強い訴求が期待でき、ブランド認知度向上に効果を発揮します。
インタラクティブVR広告は、ユーザーの行動や選択によって、展開が変化する広告です。例えば、ユーザーが特定のオブジェクトを選択すると、それに関連する情報が表示されたり、ストーリーが分岐したりするような仕掛けを施すことができます。ユーザーの興味関心を引き出しやすく、深いエンゲージメントを実現できます。
VRアプリ広告は、VRアプリ内に表示される広告です。アプリの起動画面やロード画面、特定のシーンなどに広告を挿入することができます。バナー広告や動画広告など、様々な形式で配信することが可能です。ユーザーの没入体験を邪魔しないよう、違和感のない自然な形で掲載されます。
VR広告は、企業とユーザーの双方に、以下のようなメリットをもたらします。
VR広告の最大のメリットは、その圧倒的な没入感です。HMDを装着することで、ユーザーはまるで別世界にいるかのような感覚を味わうことができます。この没入感は、ユーザーの記憶に残りやすく、従来の広告よりも強い印象を与えることができます。
VR広告は、ユーザーの行動に反応するインタラクティブな要素を取り入れることができます。例えば、ユーザーが特定の商品をクリックすると、その商品の詳細情報が表示されたり、購入ページに遷移したりするような仕掛けを施すことができます。このようなインタラクティブな体験は、ユーザーの興味関心を高め、購買意欲を促進します。
VR広告は、従来の広告に比べて、より豊かで没入感のあるストーリーテリングが可能です。ユーザーをブランドの世界観に引き込み、共感や愛着を育むことができます。
VR広告は、ユーザーの行動データや属性データに基づいて、より精度の高いターゲティングを行うことができます。例えば、特定のゲームジャンルが好きなユーザーに限定して広告を配信したり、特定の地域に住んでいるユーザーに限定して広告を配信したりすることが可能です。
VR広告は、ユーザーの行動データを収集・分析する上でも有効です。ユーザーが動画のどの部分を注視したか、どのような行動を取ったかなどのデータを収集することで、広告の改善やマーケティング戦略の最適化に役立てることができます。
VR広告には多くのメリットがありますが、以下のようなデメリットも存在します。
VR広告は、従来の広告に比べて、開発・制作コストが高くなる傾向にあります。特に、インタラクティブ性の高いVR広告や、ゲーム性の高いVR広告は、開発に高度な技術と多くの時間を要するため、コストが高額になる可能性があります。
VR広告を視聴するためには、HMDなどのVRデバイスが必要です。しかし、現状ではVRデバイスの普及率はまだそれほど高くありません。そのため、多くのユーザーにVR広告を届けるためには、スマートフォンやパソコンでも視聴可能な360度動画広告などを活用する必要があります。
VR広告を視聴したユーザーの中には、VR酔いと呼ばれる、乗り物酔いに似た症状を訴える人がいます。VR酔いを防ぐためには、長時間の視聴を避けたり、激しい動きを抑えたりするなどの配慮が必要です。
VR広告の効果測定は、従来の広告とは異なる指標を用いる必要があります。例えば、視聴時間や視聴完了率だけでなく、ユーザーの視線の動きや行動パターンなどを分析する必要があります。そのため、効果測定のための新たなツールやノウハウが必要となります。
VR技術が注目を集める中、すでにVR広告を実際に活用し、プロモーションを行なっている企業もあります。自社の製品広告から、非常にユニークな使い方まで、その用途は様々です。ここでは、国内・海外でのVR広告の活用事例を7つご紹介します。
不動産業界は積極的にVRでのプロモーションを取り入れる企業が増加しており、現地に足を運ばずに内見する体験ができるなど、徐々にビジネス活用が浸透しています。そんな中、株式会社リニューアルストアはVRを活用し、不動産VR広告サービス、「MITEKURE」というサービスをリリースしました。
MITEKUREは、賃貸物件をリアルに体験してもらえることはもちろんのこと、中古物件のリフォーム後の世界を体験することができます。これまで不動産会社によるリフォーム予定の中古不動産は、リフォーム内容が明確でないまま販売し、購入判断を迫られていました。しかし、MITEKUREを活用することで、VRで購入前にリフォーム後の物件を内見体験することができ、リフォーム後の内容に納得した上で購入してもらうことが可能となりました。
日本国内の自動車メーカー大手の「トヨタ」もVR広告に注目している企業の1つです。トヨタはVRを活用し、先進安全技術を体験できるVRシミュレーターを導入しました。このVRシミュレーターには車の座席やハンドル、アクセルなどが設置されており、シートとVR映像を連動させることで、カーブでのシートの傾きや、ブレーキをかけた際の衝撃をリアルに再現しています。トヨタはこのVRのプロモーションで、利用者の安全性を配慮した技術を2つ紹介しています。
1つ目の技術は「自動ブレーキ機能」です。 前方車両との距離を自動車が自動的に検知し、衝突の可能性が見込まれた場合、運転手にブザーなどで通知します。また、万が一ブレーキを踏み損ねて衝突しそうになった場合、自動でブレーキがかかり、衝突を回避、または衝突時の被害を軽減してくれます。
2つ目の技術は「踏み間違いサポート機能」です。例えば、駐車場で駐車をする際に、ブレーキとアクセルを踏み間違えてしまい、事故が発生することがあります。このような場面でサポートしてくれるのが、この踏み間違えサポート技術です。低速走行時に万が一踏み間違えてもスピードが出ないように、エンジン出力を抑制します。また、万が一踏み間違えて衝突しそうになった場合は、自動でブレーキをかけて衝突を回避、または衝突時の被害を軽減してくれます。
これまでは、これらの利用者の安全性を配慮した技術は、映像などを通して伝えることはできましたが、実際にその身を持って体験してもらうことは困難でした。しかし、VRを利用することで、実際に事故が起こりそうになるシーンを再現し、その技術と安全性を体感していただくことが可能となりました。VRは、危機体験を再現することで、利用者の安全性という、とても大切な情報を伝える場面でも活用されています。
スイスのチューリッヒにある、スキーリゾートのDavos Klostersが行ったプロモーションです。
体験型広告の一環としてVRを街中に設置して、スキーリゾートを体感してもらうプロモーションを実施しました。ブースにはリフトが用意されており、リフトに着席したらVRヘッドセットを装着。そうすると、目の前には本当にスキーリゾートにいるかのような、リアルな雪景色が広がります。そしてそのスキーリゾートで隣にいるのは、なんと「前ミススイス」。VRを活用して、前ミススイスとスキーリゾートでのデート体験が楽しめます。
また、映像内では料理が目の前を通るシーンが用意されており、そのシーンを迎えると、現実世界でも実際にスタッフが料理を持って目の前を通り過ぎて行きます。これにより、よりリアリティ溢れる体験をすることができます。VR体験は、最後に前ミススイスからドリンクを受け取って終了。そしてヘッドセットを外すと、目の前にはまさかのサプライズで本物の前ミススイスが登場します。
VRでの広告と現実世界を組み合わせた、まさに仮想現実な体験が楽しめる活用施策です。
VR技術を活用した不動産プロモーションの事例として、徳島県の不動産会社「ハウスマイル」が挙げられます。ハウスマイルは、VRで物件の内見体験ができるだけでなく、自社のサービス自体をVR広告という形でPRする試みを行いました。
同社はバーチャル内見サービスを提供しており、賃貸物件や中古物件のリフォーム後のイメージなどを4K画質のVR映像で紹介。今回、新たに「VR広告」を制作・公開し、YouTubeへ360度パノラマ動画をアップロードしてプロモーションを展開しました。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)やスマートフォンを使用することで、ユーザーは広がりのある不動産空間をリアルに体験できます。
この取り組みによって、単に物件の内見をVR化するだけでなく、自社のブランディング・集客へとVRを応用し、YouTubeの広告配信も含めた広範なプロモーションへと発展させています。ハウスマイルの事例は、不動産業界がVR広告を活用してユーザーの興味を引きつけ、問い合わせ数の増加や成約を促す有力な手段であることを示しており、今後さらなる導入が期待される好例といえます。
参照:VR不動産のハウスマイル、新しい「VR広告」をリリース プロモーション活動にもVRで展開、YouTube広告配信中
Audiは、VR技術を活用したショールーム「Digital Retail Modules(DRM)」を一部店舗(Audi みなとみらい・Audi 梅田・Audi 箕面など)に導入し、3Dバーチャル・リアリティで車種を体感できるサービスを提供しています。顧客はHMDを装着して、ボディカラーや内装・オプションを自由に切り替えながら、あらゆる角度や視点から自動車を確認することが可能。
また、アプリ「Audi Configurator」で作成した仕様(Audi Code)をDRMに入力することで、自分がカスタマイズした理想の一台をリアルに再現できます。パンフレットや展示車ではイメージしにくい質感や外観の見え方を事前にチェックできるため、購入前の不安を解消し、顧客の購買意欲を高める施策として大きな効果を発揮しています。
参照:先進のAudi「Digital Retail Modules」
JTBは2018年4月、BS-TBSの番組『タビフク+VR』と連携し、同社のトラベルゲート店舗に360度VR体験コーナーを設置しました。利用者はHMDを装着することで、伊豆諸島や北海道などの観光地を高臨場感で仮想旅行できるシステムを体験できます。
そして、このVRシステムの大きな特徴の一つが「時間巻き戻し機能」です。季節や天候、さらには時間帯まで自由に切り替えて表示することで、同じスポットでも春夏秋冬や晴れ・雪景色など、多彩な様子を比較しながら楽しむことができます。例えば夏の伊豆諸島のビーチを堪能した後、同じ場所を冬の雪景色に切り替えて見比べる、というような体験が可能です。こうした機能は、旅行の計画を立てる際に目的地のベストシーズンを検討したり、異なる時期の魅力を発見したりする手がかりにもなるため、利用者から大きな注目を集めています。
参照:JTB、トラベルゲート店舗で360度VR映像の「プチ旅体験コーナー」を展開
株式会社IMAGICA EEXが、ファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」をVR空間で体験できるアプリ「バーチャルTGC(β版)」を株式会社W TOKYOと共同開発しました。
このアプリでは、TGCの世界観を3D空間で再現し、ユーザーが好みのアバターを選んで、ロビーエリアやステージエリアを自由に行き来できます。ロビーエリアにはSNS映えスポットやアトラクションが用意されており、ブースの体験を通じてアバターや応援アイテムを獲得できます。ステージエリアでは、巨大スクリーンが設置され、リアル会場に設置された専用カメラによる独自アングル映像でTGCを高い臨場感のまま楽しめるスペシャルパブリックビューイングが行われます。スマートフォン向けアプリとして配信され、ダウンロードや参加はすべて無料です。
参考:IMAGICA EEX、VR空間で東京ガールズコレクションを体験できるアプリ「バーチャルTGC(β版)」をW TOKYOと共同開発
VR広告の効果を最大化するためには、以下のような点を考慮する必要があります。
VR広告を制作する前に、まずターゲットと目的を明確にしましょう。誰にどのようなメッセージを伝えたいのか、どのような行動を促したいのかを明確にすることで、効果的なVR広告を制作することができます。
VR広告を配信するプラットフォームは、ターゲットや目的に応じて選ぶ必要があります。YouTubeやFacebookなどの大手プラットフォームは、多くのユーザーにリーチできる一方、VRChatのような特定のVRプラットフォームは、熱心なVRユーザーにリーチできる可能性があります。
VR広告の成功は、コンテンツの質にかかっています。ユーザーを惹きつける魅力的なストーリー、美しい映像、臨場感あふれるサウンドなど、細部にまでこだわって制作する必要があります。
ユーザーが広告を視聴した後、スムーズに次の行動に移れるように、ユーザー導線を設計することも重要です。例えば、商品購入ページへのリンクを設置したり、資料請求フォームを表示したりするなど、ユーザーが迷わずに行動できるように工夫しましょう。
VR広告を配信した後は、効果測定を行い、改善を繰り返すことが重要です。視聴時間や視聴完了率、ユーザーの行動パターンなどのデータを分析し、広告のパフォーマンスを向上させましょう。
VR広告を効果的に展開するには、そのコンテンツをどのプラットフォームで配信するかが重要なカギとなります。
プラットフォームごとにユーザー層や配信機能、インタラクション方法などが異なるため、目的とターゲットに合った選択を行うことで、VR広告の潜在力を最大限引き出すことが可能です。
ここでは、主要なVR広告プラットフォームの特徴と強みを比較し、どのような場面でどのように活用すればよいのかを解説します。
YouTube VRは、世界最大の動画プラットフォームであるYouTubeのVR版です。YouTube VRでは、360度動画広告やVRゲーム広告などを配信することができます。YouTubeの膨大なユーザーベースと、Googleの高度なターゲティング技術を活用できる点が強みです。
Facebookは、VRデバイス「Meta Quest」シリーズを販売しており、VR広告にも力を入れています。Facebookの巨大なユーザーベースと、詳細なターゲティング機能を活用できる点が強みです。
ClusterはPC、スマートフォン、VRデバイスのいずれからでも参加できるメタバースプラットフォームで、大規模なバーチャルイベントや企業向けのプロモーションに強みを持ちます。ユーザーはアバターを通じて交流し、ライブ配信や展示会、カンファレンスなどを仮想空間で展開可能です。
また、Cluster上でオリジナルのVR空間を構築し、ブランド体験や製品デモなど多様な広告クリエイティブを展開できるため、企業規模や目的に合わせた活用が可能です。ユーザー同士のコミュニケーションも活発で、没入感の高いイベント運営を実現しやすい点が魅力となっています。
VRトラベルAdは、株式会社サイバー・コミュニケーションズとナーブ株式会社が共同開発した旅行者向けのVR動画広告プラットフォームです。ナーブが提供する接客特化型のVR端末「CREWL(クルール)」を活用し、VR動画を配信可能な点が特徴となっています。
旅行代理店などに設置されるCREWLで、観光地のVR動画を実際に視聴できるため、紙媒体では伝わりにくい現地の雰囲気や魅力を余すところなく体験できます。旅行や観光の魅力をよりリアルに伝えられるという点で、観光業界におけるVR広告の有力な選択肢となっています。
VRChatをはじめとしたVRプラットフォームでは、ユーザーがアバターを介してコミュニケーションをとることができます。プラットフォーム内に広告を出すことで、熱心なVRユーザーにリーチすることが可能です。
近年、VR技術の進化や通信環境の向上に伴い、VR市場は多方面で急速な成長を遂げています。
こうした潮流の中で、広告領域でもVRを活用したプロモーションが広がりつつあり、その市場規模は今後さらに拡大すると期待されています。
VR広告の市場規模は、今後ますます拡大していくと予想されています。スマートフォンの普及やVRデバイスの低価格化、5Gなどの高速通信技術の普及により、VR広告はより身近な存在になると考えられています。各種調査機関のデータを見ても、その市場規模は年々拡大傾向にあります。
VR広告は、今後さらに進化し、様々な分野で活用されていくと予想されます。例えば、商品のバーチャル試着や、旅行先のバーチャル体験など、よりリアルでインタラクティブな広告体験が実現されるでしょう。VR広告は、企業にとって新たなビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めています。
VR広告は、従来の広告とは一線を画す、没入感とインタラクティブ性で、ユーザーに強烈な印象を与えることができます。VR広告を活用することで、ブランド認知度の向上や購買意欲の促進など、様々なマーケティング目標を達成することが期待できます。
本記事で紹介した内容を参考に、VR広告の可能性を探求し、新たなマーケティングの地平線を切り開いてください。VR広告は、まだ発展途上の分野ですが、今後ますます重要性が増していくことは間違いありません。今のうちからVR広告の活用方法を検討し、競合他社に先駆けて、VR広告のメリットを享受しましょう。
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